あの頃のオレ =番外編=

けたたましい目覚ましの音に目が覚める。
窓から差し込む日差しがまぶしい。

時計は7:30を指している。

ベッドにはもうオレしかいない。

シャツのスソをブリーフの中に入れながら、テーブルの上を見るとメモが1枚。

「・マヨネーズと牛乳 忘れないこと」

タバコを口にくわえライターに火をつけようとしたとき、急に思い出す。
(タバコは吸っちゃいけないんだったな・・・二十歳までは)

顔を洗いすっかり目が覚めたオレは、キッチンへ足を運ぶ。

皿の上には少し冷たくなったトーストが1枚。
オレはコーヒーサーバーから少し煮詰まってしまったコーヒーを、カップに注ぐ。

牛乳との割合は8:2。
2割以上コーヒーを入れると余分な苦味が増えてしまう。
余分は嫌いだ。

固くなったトーストをコーヒーで流し込み、カバンを背負って玄関へ急ぐ。
昨日脱ぎっぱなしの靴は、まだ昨日の位置のままだ。

左足を靴に入れかけたところで、忘れ物に気づく。
あわててベッドルームへ戻る。

「これが無いとな」
オレはそう自嘲気味につぶやき、手にしたハンカチを左のポッケに突っ込む。

少し、急がないと。

靴を履き、勢いよくドアを開けると、見慣れない色彩がオレの目に飛び込んでくる。
赤と白・・・

その時、後ろで声がする。

この声は隣のおばちゃんだ。
いつも口うるさいのだが、近所の事情通でもあるから、オレにとっては貴重な情報源でもある。

引き締めていた表情を緩め、できるだけにこやかにおばちゃんの方を振り向く。

「カバン背負ってどこ行くの?」

行き先はいつもと同じさ。
答えるまでも無いだろうに・・・

「今日は建国記念日だよ?あんただけ学校かい?」

そう笑いながら、おばちゃんは赤と白・・・国旗を玄関口に掲げた。

短パンから突き出た太ももに2月の風は冷たかった。






※この物語はフィクションであり、実際とは異なった表現、誇張した表現が含まれます。