あの頃のオレPartⅦ-その2-

・・・ずいぶん間が空いてしまったが、どこまで話したかな・・・

そうそう、オレと後輩Mは、ワニを食うため、伊豆の熱川バナナワニ園へ行くことにしたんだった。

11月23日 朝5時。
冬の乾いた風が肌を刺す。

天気は悪くない。
連休の間、雨の心配はなさそうだ。

自宅の前でMの到着を待つ。

ほどなくMが到着。
荷物の確認をし、バイクに火を入れる。マフラーが白い煙を吐き出す。

冷え切ったエンジンが温まるまでの間に、伊豆までの道を再確認する。
ケチったわけではないが、ハイウェイは使わない。早朝の下道は意外と気持ちよく走れるからだ。

・・・エンジンが温まったようだ。マフラーの白い煙も少なくなった。

Mに合図し、出発。
環八から246へ。

途中、腹ごしらえに吉野家へ立ち寄る。この時間、飯が食えるのは吉野家ぐらいのものだ。

その後の道中は特にトラブルもなく、快適に走る。
昼過ぎには伊豆半島の根元、温泉で有名な熱海へ着く。

さすがに11月の連休とあって、熱海付近はにぎわっている。
オレ達はバイクを降り、休憩がてら昼食を取る。

ここから先は道が狭く、渋滞もあるだろう。
しっかり腹ごしらえをし、ガソリンを補給して、再び走り出す。

目指す熱川はまだ先だ。

しかし熱海を過ぎてからの道のりは、予想以上の渋滞で、思うように進めない。
時間ばかりが過ぎてゆく。

ようやく熱川近辺までたどり着いたときには、すでに日は傾いていた。


「先に寝るところを探そう。ワニは明日だ」

Mと相談して、今日は早めに休むことにした。

熱川の街へ下り、宿を探す・・・
しかしどこも空いていない。

「この時期予約なしでは泊まれないよ」
観光案内所のおやじがそうぼやきながらも、宿を探してくれる。

ようやく見つかったのは、熱川からさらに先、伊豆半島の先端付近にある、
下田というところのペンションだった。
温泉旅館かホテルを探していたのだが仕方がない。
そこに泊まることにした。

渋滞の峠道をさらに南下し、下田に到着。
ペンションを探す。
寒さと疲れで、バイクで走るのが辛くなってきている。

道沿いにホテルの駐車場を見つけ、そこでバイクを止めて、ペンションへの地図を広げる。
少し行き過ぎてしまったようだ。引き返さなくては。

疲れた体をもう一度奮い立たせ、重いバイクにまたがる。
そして駐車場でUターン・・・

と、その時だった。

うかつにもバランスを崩したオレは、とっさに右足を地面に着く。
しかし、疲れた体に300kgをゆうに超える巨体はあまりにも重く、
踏ん張った足を全く無視するかのごとく、バイクは転倒した・・・

・・・やっちまった。久々にこけた。
のろのろと立ち上がり、バイクを起こす。
右足が痛い・・・


M 「大丈夫っすか?」

オレ「・・・多分・・・」


精神的にも体力的にも落ち込んではいたが、このままここにいるわけにも行かない。
しかたなくバイクにまたがり、ペンションを目指す。

ペンションについた頃、辺りはすっかり暗くなっていた。

痛む足を引きずりながらペンションに入ると、すぐに部屋に案内された。
荷物を降ろし、分厚い防寒ウェアを脱ぐと、右足がさらに痛み出した。

ブーツを脱ごうとしたが、脱げない。
左足はすんなり脱げたのだが、右足はびくともしない。
Mに引っ張ってもらい、むりやり脱ぐ。

すると靴下の上からでもわかるほど、右足が腫れ上がっていた。
あわてて靴下を脱ぐと、小指の付け根あたりから先が紫色に腫れ上がり、薬指と小指が、
親指ほどの大きさになっていた。

・・・骨が折れたか?
腫れ上がっている所を手で触ると、若干、骨がぼこっとしている気がする。
左足と比べると、ちょっと形が違うような感じだが、腫れていてよく判らない。

履いていたブーツはつま先部分に鉄のカップが入ったエンジニアブーツだったのだが、
どうやら転倒した際にそのカップの部分に足を挟まれたようだ。


オレ「・・・温泉って打ち身に効くよな」

M 「あぁ、そういえばそんな話も・・・」

オレ「先に風呂に入る」

M 「えっ?!」


ペンションとはいえ、風呂の湯は温泉から引いていると、案内されたときに聞いた。
オレは飯より先に風呂に入ることにした。

湯船のふちに腰掛け、足を湯に浸ける。
足を入れてすぐは、冷え切った体に熱い湯が沁みるようで気持ち良かったのだが、
すぐに激痛が走る。

温泉で温められたことで感覚が戻ってきたのだ。
それまでなんとか我慢していられたのは、寒さで感覚が麻痺していたからだった。

血管が脈打つたびに、痛みが走る。
こらえきれず、あわてて湯船から足を出し、冷水を掛ける。

カランから水を出しっぱなしにして、足を冷やすと、痛みが収まってきた。
やはり打ち身・捻挫は冷やさないとだめなのだ。
完全に失敗だった・・・

満足に温泉にも浸かれず、オーナー夫妻がせっかく作ってくれた夕飯もそこそこに、
布団にもぐりこむ。
ズキズキと痛みが脈打ち、足が熱を持っていて、なかなか寝付けない・・・

・・・こんな状況で、明日ワニは食えるのだろうか・・・

それでもよほど疲れていたのか、睡魔が痛みに打ち勝ち、いつの間にかオレは眠りに落ちていた・・・


~つづく~